せとの森住宅

藤本壮介 2013

[注意] 本作は現役の住宅です。見学にあたっては敷地内には立ち入らず、また、住人のご迷惑とならないようプライバシー等への十分な配慮をお願いします。


#1

造成された傾斜地にある常石造船の社宅施設。二階建て住宅が2戸つながって一つの建物を構成し、それが13棟で計26戸の団地(社宅)となっている。
写真からも分かるように、まるでCGの合成のようなシーンがリアルなものとして目の前に現れたのには驚かされた。つまり、本作のポイントは家のフォルムの抽象化、すなわち「イエ」と聞いて誰もが思い浮かべる五角形(切妻)の単純なかたちを使って瀬戸内海地域のどこにでもある集落を解釈・再構成した点にある。各住棟のボリュームは周辺の家々と何とか調和する程度に抑えられ、それらが少しずつ向きを変え、前後し、スキマ空間を生み出しながら、伝統集落のような群建築を形成している。木造だが外装にはステンレスが使われ、空の色を写し込むことで刻々とその色を変えていく。さらに敷地内には新たに100本の樹木が植えられたという。この種の先例である坂本一成の「コモンシティ星田」でも個々の建物はここまで抽象化されてはいない。社宅であったために、より思い切った表現にチャレンジできたのだろう。
しかしながら、これら抽象化された「イエ型のもの」の群れは、外観のインパクトにこだわりすぎて実用性に目をつぶっているようにも思える。つまり、アート作品として私のような部外者が鑑賞するだけなら良いのだが、現実に人間が快適に生活できる住宅となっているのか疑問を感じる。樹木が育ち材が劣化していくと輝きを失うのか、それともしっとりとした集落として成熟するのか、今後の経過を見ていこうと思う。