県営吉島住宅21・22号館

土井一秀+松岡設計 2015

[注意] 吉島住宅は現役の住宅です。見学にあたっては住民のプライバシーを考え、外観撮影であっても十分に配慮するようにしてください。


#1:手前の低層部と奥の高層部でかなり差をつけている

#2:現地案内板より。下が北。青色は駐車場を示す

広島デルタ南部、中工場にも近い吉島エリアに広がる公営住宅の建替えプロジェクト。
敷地にはもともと標準設計に基づく板状住棟が建っていた。通常はより大きな板状住棟へと建替えて床の効率を上げようとするが、それでは周辺への圧迫感が大きくなる。そこで本作では建物を6つに分割し、周辺の道路の延長線上にスリット(隙間)をあけて視線が通るよう配慮された。また、敷地西側は低層密集住宅地で東側は広幅員道路となっていることを考慮して、西側の住棟を従前より低い2階建てとして周辺のスケールと調和させている。だがそれでは全体の部屋数が足りなくなるので東側は高層(9階建て)とされた。なお、敷地中央部には東西に細長い中庭が設けられており、6つのボリュームの外壁面は単調にならないよう微妙に前後させている。外壁の色はコンクリートらしいグレー系と、えんじ色(広島県のシンボルカラーを参照?)の二色でシンプルにまとめられている。

広島県は湯崎知事体制になり様々な変革がなされたが、建築分野は特に”攻めた”試みが多く、その一つが県発注案件のプロポーザル原則化だ。要は、設計報酬が一番安い人を選ぶのではなく、デザイン力が一番ある人を選ぶということであり、なおかつ実績豊富でなくても選べるようにすることで、大手業者だけでなく地元の建築家にもチャンスを与えるよう配慮されている。

本作は公営住宅という制約条件のもとで設計されており、決してハデな建築ではないし、一つ一つの工夫もごく自然で普通のことをやっているに過ぎない。だが、標準的な設計をただ敷地に当てはめるだけでは(建物単体の効率は高いかもしれないが)敷地の外を全く見ていないわけで、こういった自然で普通なことができない。どんなに小さくてちょっとしたことであっても建築家へ提案を求めることには意義があるし、それが積み重なることで都市は美しく快適なものになると再認識させられた気がした。

あえて苦言を呈するなら、この住宅単体で提案を求めるより前に、周辺の公営住宅群も含めたエリアの統一的なコンセプトを作るべきだった。例えば本作のすぐ近くにある市営吉島住宅の建替えでは大きな板状住棟がどーんと建っており、チグハグな印象を受ける。整備のタイミングや考え方が違う市営住宅と県営住宅で話し合うのが面倒なのは分かるが、お互いに守れそうなレベルでいいので緩いガイドラインのようなものをまず作って本作で提案された内容(ボリュームの分節、視線の抜けの確保、周辺にあわせた高さの調整)は盛り込んでおくべきだった。