アストラムライン新白島駅

小嶋一浩+赤松佳珠子/CAt +パシフィックコンサルタンツ 2015

広島デルタのやや北側、アストラムライン(新交通)とJR山陽線の交点に、両者の乗り換えのため新設された駅。この交点に駅を設置する構想はアストラムライン建設時からあったが実現せず、このように開業からかなりの時間を経て後付けという形で設置された。JRの駅はJR側で建設するため、広島市が所管するアストラムライン側の駅について2010年にコンペが行われ、シーラカンス(建築)とパシコン(土木)が共同で設計を担うこととなった。

施設の構成

#1:天井の高さは良い地下鉄駅の条件だ。床は内外とも御影石で統一されている。

#2:道路の中央分離帯にある。巨大ナマコ?

まず駅の立地を見てみよう。アストラムラインは、丘陵地を切り開いて開発された広島の北部住宅市街地と都心を結ぶ新交通システムであり、都心部は地下路線で途中から高架になるが、本作はまさに地下から地上に上がってくる地点、浅い地下にある。上下線の既設ボックスカルバートの間に駅コンコースが新設され、カルバートの側壁に穴をあけて乗り降りできるようにしている。このような構成は設計者選定前に決められていた。
駅のサイズや大まかな形状は既に決まっている状態でのコンペであり、本作の建築としての形もシンプルだ。道路の中央分離帯に穴を掘って地下駅を作り、その大穴の上に厚さ9mmの鋼板によるシェルの構造体を大屋根として載せるという構成になっている。平面形は道路形状に素直に沿ったかたち、断面は地下に向かうトンネル坑口のようにも見え、結果的に奥が狭いためパースが効いて奥行きが強調される。ちなみにシェルの断面は円弧を組み合わせて擬似的な放物線を作っている。テツのはしくれとして各国の地下鉄駅を見てきた私に言わせれば高い天井こそ良い地下鉄駅の条件であり、本作はまさに高い天井を持つ開放的なつくりとなっている。
この円筒シェルの空間に光を導くため、屋根の各所に大小の丸窓が付けられている。オープン当初はネットで「ナウシカのオームのようだ」とのコメントがあふれていたが、巨大ナマコっぽい印象も受ける。たしかに外観の好き嫌いは分かれそうだ。

建築と土木の協調

駅デザインのポイントは、建築と土木で協調できるかにある。そもそも駅は基本的に建築基準法の対象外(実際はいろいろとややこしいが)であり、設計の作法も土木寄りであるため、建築家からは畑違いに見える。しかも本作の場合は、列車の運行を止めることなく既設カルバートを加工していく設計が必要だった。というわけで、本作では表面のデザインや大屋根の形状をシーラカンス、地下部分や駅施設としての設計はパシコンが担当している。全部を土木屋に任せるとどうしてもディテールは大ざっぱでヤボな仕上がりになるが、本作では細部までキレイに仕上がっており、協業はうまくいっているようだ。
もう一つ、実際に訪問して”おっ”と思ったのは、サイン計画などを含め他の駅との統一感を損ねていないこと。アストラムラインはGKによるトータルデザインが行き届いた、日本で唯一きちんとデザインされた新交通システムであり、そのアイデンティティが保たれたことはアタリマエとはいえ素晴らしいことだ。

残念なところも

#3:不自然に途切れている大屋根 (*2)

このように、全体的には良い施設に仕上がっているが、ネガティブな話題を二つあげねばならない。まず、コンペ時の当初案から大幅な設計変更が生じた点。当初は大屋根は山陽線の手前、連絡通路まで伸びていくものだったが (*1)、コストが合わないなど諸々の事情があり途中で切られてしまった。現地に行くと、大屋根が途切れているのがいかにも不自然で、違和感がある(写真#3)。代わりに植栽やらで何らか表現されるようだが、雨に濡れるなど実用的な面も含め実に残念な結果である。
二点目は、本作の対象外であるが重要な「もう一つの新白島駅」であるJR新白島駅だ(写真#11)。これがひどい。工事中の仮設駅かと思ったらこれで完成だという。アストラムラインから乗り換えるとあまりの落差に愕然とする。JRの言い分も重々承知したうえで言いたいのは、ローコストでもデザインのやりようはあるはずで、最初から努力を放棄しているのはいただけない。安全と収益以外の”まちづくり”には協力しないという開き直りが空間にも現れてしまっている。このような”ザ・安普請”で目先の金をケチることが超長期にわたり市民生活の質を損ねることは明らかで、都市インフラを担う企業の姿勢が問われるべきと思う。

このように色々と考えさせられる施設であるのと、実は乗り換えがかなり面倒というツッコミもあるが、建築ファンとしてはJRで基町高層アパートなどにアクセスしやすくなったのはメリットでもある。基町の散歩ついでに駅鑑賞してみるのもいいだろう。