西風館

日総建+車田建築設計事務所 2011

#1:玄関の車寄せ。背後の山を借景としている

西風新都と呼ばれる丘陵部のさらに周縁、工場や物流倉庫が並ぶエリアの一角に建つ火葬場。葬祭場の機能も併設されている。

都市の周縁部という立地を活かした「大きなランドスケープ」

火葬場は迷惑施設の一つであり、都市生活者に存在を気付かせない山中に置かれることが多い。広島には同じく迷惑施設であるゴミ焼却場に中工場という傑作があり、沿岸部という立地を読み解いたデザインが印象的だが、本作は山中という立地を存分に活かした設計がなされている。
敷地に入ると、よく緑化された長めの車路を進む中で(立地上、来館者は自動車利用である)、徐々にここが工業地であることを忘れさせ、周囲の山々を借景とした大きなランドスケープ(山々に接する周縁部の強みといえる)に引き込まれる。建物のファサードをあえて隠す位置に築山を配するのも設計の妙で、長大な建物にアプローチするという感覚を薄めている。ファサードといっても横に長いガラス箱であって存在感は薄く、背後の山に向かっているような錯覚を覚える。

増え続ける火葬需要と個葬化に対応する平面計画

#2:館内に展示されていた模型を撮影。手前が玄関、右が火葬場棟、奥が待合室、左が葬儀場棟。中心に中庭がある。

平面計画を見てみよう。本作は中庭を囲むロの字型配置計画で、火葬棟・待合棟・葬儀場棟・玄関から成っている。多死時代を迎えた日本では火葬需要は増え続けており、多くの火葬を効率的にこなしていく必要があるが、一方で、家族中心にじっくりと見送りたい個葬の要望が強くなっている。これらを両立させるため、本作は10基の火葬炉や100人規模の葬儀場を備える大規模施設ながら、複数の遺族が鉢合わせないよう玄関→お別れ→待合→拾骨の動線を緩やかに一方通行化する、火葬炉10基に対しお別れ室を5室配置(つまり1室を2つの遺族が交互に使う)しつつも炉口は一つしか見えないように可動壁とする、等の工夫が見られる。
そして何より、四つの機能の中心にある中庭空間が重要だ。玄関と火葬棟の中庭側は無柱の大開口にして空間に広がりを持たせ、”大きなランドスケープ”に抱かれることで気持ちを落ち着かせる効果を生んでいる。中庭は「安芸のふるさと」と名付けられ、水盤・築山・石の造形物によって、広島に住む者が見慣れた山々や島々の風景が抽象化されて表現されている。施設規模の大きさからどうしても玄関に長大な車寄せが生じるが、中庭のスケールを取り込むことで長大さへの違和感も軽減されている。

唯一感じた違和感

#11:お別れ室

素材の選択も確かで、石・ガラス・木に加え、天然スレートも効果的に使われている。唯一気になったのはお別れ室の壁面で、北向きのハイサイドライトから柔らかな光を入れるのは良いとして、火葬炉の大きな壁面(コンクリート打ち放しと木が選ばれている)は全体をスレートかタイル的なもので覆うか、逆に木で埋め尽くすべきだったように思える。(写真#10)







#12:駐車場の緑化も徹底している

本作の「大きなランドスケープ」に抱かれる感覚は少しだけアスプルンドの森の墓地を思い出させたし、気持ちを落ち着けつけるゆとりを持たせつつも基本的にはテキパキと火葬していくさまは都会的との印象も残った。ともかく、市営施設としては管理面も含めて最高グレードの本作は、建築作品として十分鑑賞に耐える出来栄えといえる。