向島洋らんセンター 展示棟

岡河貢 1995

#1

向島(むかいしま)は洋ランの生産地として知られており、研究・展示・販売の拠点として建設されたのが洋らんセンターである。単なる観光植物園ではなく研究開発を担っている点に特徴がある。

展示棟の設計を担ったのは尾道出身の建築家 岡河貢。岡河は展示棟を考えるにあたり、よくあるガラス温室では維持が困難になると予想し、他用途にも使える設計を提案した。

この建物は農業生産品である洋ランの展示をすることが機能のひとつであるが、そのためだけにこの建物をつくるのはこの町の公共建築としてはもったいないと考えた。-(略)- ガラス温室は展示空間としては空調の負荷、ガラス面の清掃という問題がありそれを解決するには、完成後のランニングコストが町の財政にたいしてかなりの負担となることも考えられた。いくつかの多様な用途としてつかえる施設とするプログラムに対応するために、コンクリートスラブの建築とすることにこの町の行政は理解を示した。
(岡河貢「公共建築の公共性と機能空間としての粗密空間」雑誌新建築1997年2月号pp213より引用)

オープン当初の写真を見ると、色とりどりの花で溢れており、いかにも植物園という趣であったが、今では雑多な植木鉢が並ぶ、「花好きなおばちゃんの家」という感じの空間になっている。立派な植物園然とした施設は維持しきれないという建築家の読みは的中したといえる。
このように展示品は必ずしも洗練されているとは言いがたいが、手作り感のある展示を身の丈の範囲で続けているのは地域性の表現であり、素直に好感が持てる。空間としても、崩れそうで崩れない微妙なバランスを保っており、不思議な居心地の良さがある。すなわち本作は「良いデザイン」であるということだ。(あくまでこのプロジェクトにおける最適なデザインという意味で)