広島市現代美術館

黒川紀章 1988

比治山公園という小高い丘に建つ国内初の公立現代美術館。園内にはやはり国内初の公立漫画図書館もある。建築家黒川紀章にとっても本作は最大級の作品であり(国立新美術館はさておき)、学会賞を受賞している。
メタボリズムで建築界を騒がせた黒川だが、本作は1980年代らしくポストモダンの影響が各所にあらわれている。石垣っぽい基部の上に白壁の土蔵群のような造形が乗るあたりが最も分かりやすい。こういった抽象的な切妻屋根は一種のアイコンとして当時多用されていた。本作の場合は土蔵群の横に西欧由来の列柱が並ぶが、両者はそれほど違和感なく接合されている。エントランスには円形広場が配され、スリットで爆心地側を表現している。スリットの延長線上にはムーアの「The Arch」という門型の作品が置かれる。この軸線の表現は丹下のピースセンターに呼応させたのかもしれない。
この造形が美しいかと問われると答えに窮するが、どうしようもないポストモダン駄作と比べれば、一応は建築作品として鑑賞に耐える。

本作の計画上のポイントはボリュームの大半を地下化している点で、比治山の稜線をできるだけ乱さない配慮がなされている。だが、それにしても巨大すぎて比治山の何分の一かを占めるくらいの印象だ。

そして、本作の最大の間違い(だと思う)は、その立地だ。美術館は落ち着ける環境が大切だから、都心部から離れた緑豊かな公園に作るべきという発想は各地で見られるし、都市計画的にも美しそうだが、それでは足が遠のくだけであり、山奥や離島の美術館のような非日常をウリにする施設でもないので、やはり本作は市民がアクセスしやすい都心に立地すべきだった。