旧広島みなと公園トイレ

石川誠 2017

#1:分割された屋根が折り重なるように並ぶ

#2

広島デルタの南端、宇品港の旧ターミナル近くにある公園のトイレ。広島県が主催する40歳以下の若手建築家向けコンペ(最終審査は公開の場で行われている)により設計者が選定された。

計画地は港に隣接しているが、直接水面が見えるわけではなく、普通の児童公園という趣である。この敷地の隅に、3つのボリューム(男・女・身障者向けのトイレブース)を置き、公園とボリュームの間にはバッファーとなる東屋のような空間を設け、大小に分割された傘のような屋根をかけている。傘はサイズだけでなくレベルにも少しずつ差がつけられているが、これは島々が重なるように遠望される瀬戸内海の風景をイメージさせると共に、既存樹木との関係も大いに意識されているようだ。
屋根に限らず、本作から感じられるのは、合理的な造形で違和感なく風景に溶け込ませつつ、着実に公園に付加価値を付けようという堅実なデザインである。公共建築のあり方には「市民生活の基盤を支える脇役」「新風を吹き込み建築文化をけん引する主役」の両方があるが、本作は明らかに前者だ。一方、同じく広島市内で小川文象が提案したパークレストルーム(広島市が管理する公園での公衆トイレ)は後者で、異形の造形物を挿入することでありふれた公園に変化を付けようとしている。どちらが正しいとは言えないが、本作の控えめだが心地よいスケール・造形が一つの正解であると言って差し支えないだろう。コンペの部会長を務めた小嶋一浩の講評では、当選した石川案について「群れをなす屋根のきれいなシルエットと屋根の下の半外部空間が木立にとけ込んだ建築、綿密な検討によってそれを実現しようとする提案全体の持つ説得力」と評価している。

気になる点もなくはない。一つはディテールが安っぽく感じられる点。おそらく予算の問題(建設費だけでなく管理費もにらんで)なのだろうが、模型を大きくしただけのようにも見えるのは残念。もう一つはサイン計画で、この建物がトイレであると分かるようにしておかねば、後々行政職員が醜いサインを付けてしまうリスクがあるわけで、何らかの工夫が必要だったように思う。