LOG

ビジョイ・ジェイン/スタジオ・ムンバイ・アーキテクツ 2019(改修)

尾道の特徴である細く長い石段を上がった先に建つホテル。1963年に建てられたRC造の集合住宅「新道アパート」を改修し、ホテルやギャラリー等に再生された。尾道では多くの空き家が再生されつつあるが、本作はこれまでにない特大の再生事例といえる。LOGとは「Lantern Onomichi Garden」で、尾道に明かりをともすような活動拠点との意図で命名された。

#1:山の手にある計画地は細い路地のみに面する。工事車両の進入はできない。

尾道で空き家再生が一大ムーブメントになったのは理由がある。まず、山の手の家々は建築基準法上の接道条件を満たしていないことが多く、接道していたとしても工事車両が進入できなければコストが跳ね上がってしまうという点。こうして建て替えできない家々は空き家になってもそのまま放置されていた。近年になってそれらが”古民家”として(不便であっても)価値が認められる機運が出てくるとともに、「空き家再生プロジェクト」などのNPOや尾道市による取り組みもあり、再生が進んでいった。
本作もそういった山の手の住宅と同じく細い路地のみに面しており、車両の進入はできないので、新築ではなくリノベーションが合理的である。それでも資材搬入自体が困難という中での工事には大変な苦労があったようだ。

デザインを担ったのはスタジオ・ムンバイ。ムンバイに拠点を構え、地域の伝統技術や自然素材を重視し、建築家と職人が連携して設計から施工まで一貫して取り組むのが特徴であり、本作はインド以外で初の実作となる。
1~2階の多くの部屋は壁を抜いてピロティ状の吹きさらし空間となっている。ギャラリー、カフェ、ショップなど宿泊者以外も入れるゾーンであることからオープンな表現になっているのだろうが、完全に外気に解き放たれた空間は熱帯気候を連想させる。当初のRC躯体の素材感を活かしながら、独特な色彩でまとめているのも”異国感”があって面白い。以前からあった立派な石垣や門はそのまま残されている。
全体を通して、洋風とも和風ともいえない”異国感”が挿入されつつも不思議な調和を見せているのは、デザインの方向性が違っても建物の再生に臨む姿勢自体には尾道の空き家再生に通じるものがあるためかもしれない。

カフェだけ利用することもできるが、本作をじっくり味わい尽くすには泊まるのが一番だ。アプローチは徒歩で石段を登ることになるので、荷物は軽くして訪れたい。