旧和泉家別邸(尾道ガウディハウス)

不詳 1932

#1:外観

尾道に数ある木造邸宅建築の名品の中でも、特に異彩を放つのが本作だ。崖上の急傾斜地という不整形・狭小敷地に、絡みつくように建っている。南京下見板や水切瓦がもたらす陰影の深さや装飾性(非常にデコラティブであることは写真からも伝わると思う)、随所に感じられる人の手の暖かみ、そして場と建築とが渾然一体となったこのたたずまいは神秘的ですらある(写真#1)。この圧倒的な存在感から誰ともなくガウディハウスと呼ぶようになった。

本作は、尾道市で箱物製作・販売を手がけていた和泉家の別宅として建てられたもので、1980年頃まで住居として使用された後に空き家となり、2013年現在ではNPO法人尾道空き家再生プロジェクトが再生に向けて修復工事を行っている。
木造建築技術が最高潮に達していた昭和戦前期の名品であり、一人の大工が3年かけて建てたものという。

室内写真はいずれも2013年時点のもの。アールを描く階段は大工が特に腐心したところで、物入れまで付いている凝りよう(写真#4)。台所は昭和初期のまま、かまどのディテールまで往時の姿をとどめており、驚異的な保存状態である(写真#5)。

尾道駅を北口から出て、三軒家エリアを散策し本作を経由して洋風長屋へ…というのは定番コースになっている。内観は見学会などの機会に限られるが、外観だけでも見る価値があるのでぜひ足を運んでみてほしい。