厳島神社宝物館

大江新太郎 1934

厳島神社に奉納された宝物を展示する施設。観光客の多くは全く見向きもしないが、これは戦前に設計された近代和風建築の一つであり、既に築80年の歴史的建造物だ。
関東大震災(1923年)以降、国内では耐震・耐火に優れたRC(鉄筋コンクリート)の普及が進んだ。当時の建築界では「RCで和風の建築デザインは可能だろうか?」という議論が生まれ、そこからRC近代和風建築というスタイルが出現した。例えば旧歌舞伎座(岡田信一郎)、東京国立博物館(渡辺仁)、明治神宮宝物殿(大江新太郎)など。広島市内だと比治山の山陽文徳殿がある。
話を宝物館に戻そう。本作はRC近代和風建築としては保守的だ。コンクリートならではの新しい造形にチャレンジしているわけではなく、柱・梁の太さや配置に至るまで、木造建築の”かたち”を忠実にコピーしている。コピーだから簡単というものではなく、設計には木造・RC両方への深い理解が求められたはずだ。経験豊富な大江(*1)だからできた仕事と言えるかもしれない。ちなみに和風とはいえ窓は網入りガラスである(写真#4)。
内部は撮影禁止なので撮っていないが、窓まわりのディテールなど、グッと来るのでぜひご覧あれ。なお、内部に展示された平家納経はレプリカだが手の込んだもので、一見の価値がある。