古田幼稚園

村山雄一 1988

[注意] 古田幼稚園は現役の幼稚園です。見学は外観のみにとどめ、幼稚園および周辺住宅の迷惑とならないよう静粛を保つなど、十分な配慮をお願いします。ここに掲載した写真は見学会の際に撮影したものです。内部見学について問い合わせることもおやめください。


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古江の電停からほど近く、閑静な住宅地に建つ幼稚園。現役の園舎なので普段はもちろん非公開だが、特別に内部見学する機会を得たのでレポートしたい。

シュタイナー風の意匠

古田幼稚園はルドルフ・シュタイナーの教育論を取り入れた幼児教育を行っており、ドイツでシュタイナー研究に取り組んだ建築家である村山雄一の設計により増築部が建設された。
シュタイナーは有機的なデザインの建築をいくつか残しており、本作にもその影響が見られるが、基本的には村山オリジナルの造形ととらえるべきだろう。ただし、幼児教育の空間は母親の胎内を思わせるピンク色とする、建材はディテールに至るまで自然素材を使用する(プラスチック系の材料はNG)など、シュタイナー教育での「お約束」はしっかりと織り込まれている。

木造和風建築

その見た目とは異なり、中身は和風建築と言ってさしつかえない。基礎はRCのようだが、小屋組はトラスではなく和小屋で壁は漆喰仕上げである。木材加工の精度は工芸品と呼ぶべき水準だ。請け負った建設会社は高い技能を持つ宮大工を起用して本作の施工にあたった。漆喰については白く平坦に仕上げるのが通常であるが、本作では漆喰自体を着色した上で村山自ら庭ぼうきで壁に凹凸をつけるなど左官職人に細かな指示を出したという。

躍動感の表現

写真からもうかがえるように、水平・垂直から自由になった動的で躍動感のある意匠が本作最大の特徴といえる。屋根は三つの部屋の各頂部を複雑な曲線で結んだ形であり、ドアや窓枠などの建具(もちろん木製)も非常に複雑な形になっている。

日本の家屋は、個人住宅から超高層ビルまで直線と直角で構成されている。柱と梁の構造から考えて合理的であるし、畳の上で暮らしてきた歴史もある。これは完全に私の主観だが、この建物から躍動感を感じるのは、普段見慣れない斜線や曲線の要素を各所に盛り込んで、「四角い建物が変形した」ような錯覚をおこさせつつ、その造形を完璧にはおさめず、「のびしろ」を残しているためでは?と思う。

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