宇品デポルトピア

宇品に建つ県営倉庫の利活用プロジェクト。最近の広島ではちょっとホットなエリアとなっている。

各地で進む旧港湾の再整備

#1:一部だけ残る旧陸軍桟橋。

この地は江戸時代は遠浅の海であったが、明治期に近代港湾と鉄道(宇品線)が整備され、陸軍運輸部が本拠地を置いたことで、一大兵站基地と化した。最盛期の宇品駅は日本一長いプラットホームを誇り、軍関係の荷役施設が多数建設されていた。だが、戦後の港湾整備や近年の道路建設により遺構は破壊し尽くされ、当時の面影を残すのは、旧水上警察署の洋館と、護岸の一部として現存する石積み桟橋のみとなっている。
戦後この地には県営倉庫群が建設されたが、貨物船が急速に大型化し、巨大コンテナ船が主流になると宇品港には入りきらず、出島などに新たなコンテナ埠頭が建設された。かくして宇品の港湾施設は空き家となってしまった。このように、港が町の外へ外へと出て行く傾向は世界共通で、使えなくなった旧港湾を都市再生に活かす試みが各地で行われている。広島の場合は、港湾の土地建物を売ってしまうのではなく、建物を民間へ貸し出す方法が選択された。

エリアの概要

#2:最初に改装したのは一番東側の5号上屋(*1)でアクタスが入居。当時はまだ西側の倉庫は未改装状態。(2012年1月撮影)

2015年12月時点でエリア内の施設は5棟。西側の2棟は新たに民間が建設したもので、東側の3棟は県営倉庫を民間がリノベーションして使用している。内容は、結婚式場、ライブハウス、家具・雑貨店、カフェ等。当初は最も東側の1棟だけでスタートし、徐々に増やしてきた。その他の倉庫や荷さばきスペースは駐車場として利用されている。さらに、隣接する公園には前述の旧陸軍桟橋の遺構と、なぜか「海と島の博覧会」のシンボルタワーがあり、一応のまとまりあるエリアを形成している。

インフラ整備

旧港湾の強みは、海に近く開放的な水辺の景観が楽しめることだ。広島も高潮対策の防潮堤があり、そのままでは水辺に行きにくいため、各所に陸閘(高潮時には扉を閉める)を設けたほか、防潮堤を透明のアクリルにして視線が通るようにしたり、階段状にして店舗レベルに合わせたり、インフラ側でかなりの整備をしている。デザインはやや残念だが、エリアの魅力向上にしっかりと投資を行うことは高く評価されるべきだ。

公共空間活用・マネジメントの不足

#11:水辺のテラスが閑散としすぎている。まずはオープンカフェを並べてはどうだろう。

かなりよくできているが、客は店舗に吸い込まれていくだけで、にぎわいが水辺に及んでいないし、エリアを回遊しようという行動が見られないのは課題と考える。原因は、水辺のテラスへの魅力の付与が足りず閑散としているためだろう。対策としては、オープンカフェや屋台を並べる、イベントを誘致する、もっと水に近づける浮き桟橋を設けてカヌーやSUPが利用できるようにする、水上レストランを浮かべる、ぐるりと回れる回遊動線を整備するなどが考えられる。港湾区域の利活用としては東京都の運河ルネサンス事業などの事例もあり、創意工夫でできるはずだ。実施主体としてはエリアマネジメント組織を新たに組成し、県が倉庫利活用で得た賃料収入の幾ばくかを充てれば(港湾区域の日常管理と警備も兼ねて)そう難しくない。まずは水辺テラスにイスを100脚置いてみてはどうだろうか。水辺ににぎわいが生まれればさらに大化けするように思えてならない。