亀老山展望台

隈研吾 1994

#1:アプローチ

大島の南側、来島海峡を見渡せる山頂に構築された展望台。

建築家 隈研吾がこの仕事を受けた段階で、この山頂は切り取られて水平にされており、そこに旧展望台が置かれていた。展望台とは、そこから周囲を見るための構造物であるが、逆に周囲から見ると山頂に突出する邪魔者ともなる。隈のアイディアは、山頂に土を盛って稜線を復元し、さらに展望台を埋め込むことで、瀬戸内海の自然景観を改善すると同時に展望台が本質的に抱える問題を解決するものであった。このシンプルなアイディアが浮かんだ段階で、本作が出色の建築作品となることは約束されたと言ってもいいだろう。

展望台は本来、見るための装置である。にもかかわらず、多くの展望台は、見られるもの(objectあるいはオス)として、環境の中に突出する。この転倒を反転することが、このプロジェクトの目標である。
(雑誌 新建築1994年11月号より引用)

施設の平面形は、山頂に開けられた(正確に言うとここを残して周囲を土盛りしたのだが)スリットの両端に展望スペースが設けられ、それらは薄いブリッジで連絡される。そしてアプローチはスリットの側面からもう一本スリットが分岐する形になっている。展望台からの眺望はすばらしく、瀬戸内海全体を見てもトップクラスの絶景である。

また、本作は隈が新境地を開いた作品として知られる。初期作品が自らの造形物を見せつけるものであったのに対し、本作は課題解決に力点を置いて自らの造形物は消されており、この作風の変化が後の再ブレイクにつながったとされる。