吉原家住宅

不詳 1635

向島の中央部にあるかつての豪農の住宅。
吉原家は向島の村々を束ねる大庄屋であり、本作は周辺村落を見渡せる小高い丘の上に建っている。
主屋は1635年の建物であり、建設年が明らかな民家としては全国で三番目に古く、農家としては現存最古とされる(*1)。県内に残る古建築も大半は明治以降で、わずかに江戸後期があるのみであり、江戸前期である本作の希少性は際だつものがある。住宅として使用され続けたため各所が改造されており、重要文化財として修理する際に当時の姿に復元された。日曜は内観することもできる。
本作を訪問すると、まず丘の上にそびえる長屋門を目にすることになる。身分制度が厳格だった江戸時代に農家が門を持つことはイレギュラーであり、この門だけで家の格の違いが強く表現される(*2)。門をくぐると正面に主屋が見える。主屋は東向きで、屋根は茅葺きの寄棟造。間取りを見ると、土間は比較的小さく、正面側に玄関や応接スペースをしっかり確保している。農家であるが役所としての機能も担ったことがうかがえる。部屋ごとにフロアレベルを変えているのも大変興味深い。
主屋のディテールで目に付くのは床板。製材所のなかった江戸時代は「板」を作るのも手作業で手間がかかった。本作の床板を見ると職人が槍鉋(やりがんな)で仕上げた跡が残っている。