市立矢野南小学校

象設計集団 1998

#1

#2

#3:屋上の水田

広島市郊外、矢野の丘陵地に開発されたニュータウン内に新設された小学校。著名な建築家を起用してデザイン性の高い公共建築を整備するプロジェクト「ひろしま2045ピース&クリエイト(その後「ひろしま2045平和と創造のまち」へ改称)」の第一弾として建てられることになり、当時既に埼玉の笠原小学校(1982年)の斬新な設計が知られていた象設計集団が起用された。

周辺の地形と呼応する造形

普通教室・特別教室が入る校舎は二つのボリュームに分けられて東西方向に平行配置され、間には中庭が設けられている。北側の棟はほぼ板状だが、周辺の町割りにあわせて途中で「く」の字に折れ曲がっている。南側の棟はセットバック型で南にいくほど張り出す形になっており、棚田のように見えるが、周辺に広がる丘陵部の住宅団地の地形を表現したものだろう。校庭を盆地のように見立てて周辺と違和感なくなじむように工夫されている。

教室と校庭の近さ

普通の校舎は、建物内に廊下と教室があり、教室は南側、廊下は北側、靴箱は全員分まとめて置いてある。しかし、本作の廊下は建物外にあり、教室が北側で廊下は南側、靴箱は教室ごとに分けて置いてある。こうすることで、教室から校庭への距離を最短にして子供が外に出やすくしようという設計意図を感じさせる。また、靴箱の近くには手洗い場や坪庭も教室ごとに設置されている。常時裸足で過ごす前提の笠原小ほどではないが、市内の他の小学校とは明らかに違うポイントだ。
ただし、教室の窓が北側となり南面採光ができないため、室内は普通の校舎よりも暗めである。

自然と共生し経年変化を楽しむ

セットバックしていく屋上を緑化して上階の教室の専用庭としたり、3階の屋上に菜園や水田を設けるなど、常に自然や四季の移ろいを感じさせる工夫がなされている(*1)。窓やドアなどの建具、机などの家具はほぼ全て木製で統一され、子供が触れるところは自然素材となるよう配慮されている。
竣工から10年以上経過し、屋上の植物が成長していく一方で、建具は色あせて溶け込んでいきつつあり、RC造というよりは古い木造校舎にも似た雰囲気が出ている。竣工時が最高でそこから劣化していくのではなく、年月が経つほどに深みを増していく建築は現代ではまれで、本作の”名品度”は今後も増していくであろう。


細やかな遊び心

校内の各所に遊び心満載の仕掛けが用意されている。例えば「理科の庭」と呼ばれる中庭には排水用の溝が掘られており、雨水や手洗いの排水が流れていく様子が目に見える。作家性が強いデザインだが、独りよがりというわけではなく、子供に近い目線でのデザインが心がけられているのが分かるし、ディテールにいくほどその方針は徹底されている。また、タイルや煉瓦など、材の選択の巧みさはここにも現れている。