呉市海事歴史科学館「大和ミュージアム」

久米設計 2005

#1:道路側外観

#2:模型を撮ると必ず逆光になってしまう

呉の臨海部、客船ターミナルに隣接して建つ博物館。呉はもちろん県下最大級の集客施設となっており、埋もれがちな資料の収蔵にも力を入れている。

建築としての最大のイレギュラーは南側の大きな窓だ(博物館・美術館では資料を保護するため南面採光しないのが通例)。背後に呉港の海を見せたかったのかもしれないが、模型の写真を撮ると必ず逆光になってしまうのは無視できない問題だと思う。また、二階に上がると模型の鼻先を撮れなくなるのも驚いた(設計ミスなのでは…?)。レンガの表現は地元ウケを狙ったのかもしれないが、本物を積むならともかく、デザインとしてはあまりに安易だ。それと、大和の前半部分を表現した屋外ウッドデッキは、施主の要望なのだろうけど、ランドスケープデザインとしての美しさは全くない。

このように建築作品としてあまり見るべきものはないが、展示は充実している。 観光客のめあては戦艦大和の大型模型であるが、この施設の本質は兵器博物館ではないし、靖国神社の遊就館のような特定の政治的立場・イデオロギーを提示するものでもない。呉という都市がそもそも海軍なくして成立し得なかったという事実、大和をはじめとする建造技術の蓄積なくして日本は戦後に世界一の造船大国となり得なかったという事実を、豊富な資料と共に正しく伝えようという明確な意図が込められている。兵器類を戦争の道具だからと覆い隠すのではなく、逆にナショナリズムを喚起するエサにするのでもない、歴史・産業・技術遺産として保存しようというニュートラルな姿勢は個人的に大いに共感できる。
つまり、この施設の本質は大和の存在を通して呉という都市のアイデンティティを確認することにある。陸軍の姿が完全に消滅し「国際平和文化都市」を自称する広島と、戦後も自衛隊が駐留し造船業で都市を維持してきた呉を対比すると実に興味深い。