徳森旅館 [現存せず]

不詳

大崎上島で「街並み」と呼べるものは木江が唯一だろう。木江は大正~昭和にかけて栄えた比較的新しい潮待ちの港で、かつては造船所や遊郭が活況を呈したが、物流が移り変わる中で穏やかな衰退を続けてきた。映画館や警察署、他の旅館など、名作建築が続々と失われていったが、神社の目前の水際に立つ徳森旅館は残り、木江のシンボルであり続けた。行政が出す観光ガイドの表紙を飾ったこともあったように記憶している。 旅館が廃業した後数年間は空き家として次のオーナーを探す状態であったが、ついに時間切れとなり解体されてしまった。尾道のような空き家マッチングの仕組みと、わずかばかりの補助さえあれば生き残れた可能性もあり、解体は残念でならない。 ここに掲載した写真は、木江を訪問した際、偶然にも旅館内部に入れることになり、短時間でできる限りの撮影をした時のもの。既に窓にはベニアが打ち付けられた状態だった。
誰の言葉だったか失念したが「『建物は失われても記憶の中で生き続ける』というのは嘘だ。建物が失われれば記憶からも消えてしまう。」というのは確かにその通りで、あと何年か経てば記憶からも消えていくのだろう。
また、某旅行ガイドブックでは、以前の版は木江が載っていた(もちろんアピール写真は徳森旅館)のに最新の版では消えてしまった。船便が減ったことが主因だとは思うが、あの水辺の景が消滅したことも少なからず影響しているように思えてならない。