白滝山荘/旧ファーナム住宅

W.M.ヴォーリズ 1931

#1:外観。3階建てだが傾斜地なので2階建てに見える。

建築家ヴォーリズは広島県内にも多くの作品を残したが、ことごとく失われており、本作がほぼ県内唯一の現存例である。因島の白滝山の登山口にあり、当初はアメリカ人牧師ファーナム(バプテスト教会)の住宅として建てられたが、戦時色が強まった1941年に牧師は帰国。戦後は日立造船が集会所や宿舎として使用していた。一時は空き家となって荒廃したが、1987年に個人所有のペンションへと再生し現在に至っている。往時は周囲に家も少なく、あたり一面に除虫菊が咲き誇る丘陵地だった(写真#2)。
1階はRC造、2~3階は木造で、傾斜地に建つのでエントランスは2階となる。エントランス周りの外観を見ると、ハーフティンバーと偏平尖頭アーチ(写真#4)からイギリスの邸宅建築(チューダー様式)を連想させる。3階の張り出し(ジェティと呼ばれるらしい)は木造ならではの造形で、持ち送りにも意匠が凝らされている(写真#4)。3階南側にはドーマー窓が付く。
室内の壁紙などは更新されているようだが、作り付けの戸棚や小窓付き食器棚など、素朴だが使い勝手のよいヴォーリズらしいディテールが残る。2階居間の暖炉は偏平尖頭アーチでイギリス風、3階の廊下にやや唐突に開けられた円形の下地窓は和風の表現(写真#7)。地形の関係からか中3階レベルにもスキップフロア状に居室があり、アクセスするドアが階段の踊り場に付いている。2階は木製の上げ下げ窓が現存、3階トイレ(写真#9)には東洋陶器製の手洗い台が現存する。
島しょ部では洋館建築は極めて稀で貴重な存在だ。しまなみ海道の道中に位置しており島めぐりのついでに立ち寄りやすい。ランチ(要予約)だけでも利用できるのでぜひ訪れてみてはいかがだろうか。