豊国神社本殿(千畳閣)

不詳 1598工事中断

#1

厳島神社を見下ろす塔の岡に建つ巨大建築。1587年に豊臣秀吉が安国寺恵瓊(毛利氏の使僧)に大経堂の建立を命じ、工事着手したものの、秀吉の死により中断、未完成のまま現在に至っている。江戸時代は仏教施設として使われたが、明治の神仏分離令に対応するために(江戸時代は神仏習合のもとで神社と寺の融合が進んでいた)仏像を大願寺に移して神社に変更し、厳島神社の末社「豊国神社」となった。なお「千畳閣」とはそのスケールから名付けられた通称である。(実際は857畳)

本作の特徴は、まずその大きさだ。柱・梁に使われている材も大きく見ごたえがあるし、石垣も城郭を思わせる見事なものだ。さらに屋根には金箔瓦(当時のままではなく補修を受けている)が使われている。江戸以降の建物とは少し違う桃山時代のバブリーな雰囲気がよく現れている。

その一方で、未完成であるが故にゴテゴテした装飾は少なく、逆に今の日本人が好む素朴な空気も醸し出している。天井や壁もほとんどなく、構造材がむきだしのままで独特な開放感があり、高台のテラスとしてはとても気持ちよい。この偶然が生みだしたアンバランスさが本作の魅力といえるだろう。