海上自衛隊呉地方総監部庁舎/旧呉鎮守府庁舎

桜井小太郎? 1907

#1:海側から見る

#2:海側ファサード

呉に残る赤レンガ建築の中でも筆頭に挙げられる名品。江田島の旧海軍兵学校と共に、西日本屈指の煉瓦建築といえよう。
本作は鎮守府庁舎としては二代目にあたる。初代庁舎もレンガ造2階建てで1889年に開庁したが、1905年の芸予地震により2階部分が倒壊し平屋に改修された。その旧庁舎の隣接地に1907年に新設されたのが本作である。

庁舎の見どころ

本作はレンガ+石造2階建てであるが、エントランス周りの石造の部分が特に見ごたえがある。車寄せにある御影石の角柱はレンガ部分の目地と切込ラインを合わせる凝った意匠だ(写真#3)。2階にはイオニア式柱頭装飾を持つ柱が立ち、その上にはペディメント、さらにドーム屋根が載る(ドーム屋根は空襲で喪失しており、現在のものは復元)。エントランスホールは石張りの床に漆喰仕上げの壁で、階段前に三連の偏平アーチが確認できる。(写真#4)

また、本作の重要な特徴として、陸側と海側に同じファサードを持つことが挙げられる。おそらく、陸からの馬車アクセスと共に、停泊艦艇から内火艇でのアクセスを想定した、いかにも海軍らしい仕様と考えられる。なお、海側にはウイングが張り出しているが、その部分は後の増築であるらしい。ほとんど増築であることが分からないよう丁寧に仕上げられている。(写真#2)

本作の設計者は不詳であるが、芸予地震後の再建を担った当時の呉鎮守府建築科長である桜井小太郎が関与した可能性が高い。


敷地内のその他の見どころ(通常非公開箇所含む)

敷地内には本作以外にも多くの施設があるので、通常の見学では非公開になっている箇所も含めて紹介する。旧鎮守府庁舎に向かい合っている警務隊の建物は敷地内で最古の施設(写真#7)。水辺から旧鎮守府に上がるための階段は明治天皇の行幸を想定した施工で、精緻な石材加工がすばらしい(写真#9)。丘の下には、石積み桟橋(写真#10)、プール(写真#11)、被服倉庫(写真#14)などが並んでいる。