ホロコースト記念館

前田圭介 2007

福山の郊外に建つ資料館。ホロコーストの各種資料やアンネの部屋の再現など、小規模ながら充実した展示がされている。

福山どころか広島県内を見回しても、公共的な施設でこれほどまで作家性をつきつめた”建築っぽい”建築はめったにない。階段の造形(写真#9)、”子供の部屋”の丸い引き戸(写真#11)、コールテン鋼の風合いを活かした塀(写真#12)…。個人的にはエレベーター横の作り付けソファにグッときた(写真#7)。水盤から水が抜かれているのはちょっと残念だが、大きく印象を損なうほどではない(写真#2)。
ただし、一つだけ物足りないことがある。ホロコーストについての空間的表現が見つからないのだ。それが施主の要望だったのかもしれないが、極端な話、この建物がホロコースト記念館ではなく「○○美術館」であったとしても全く違和感がない。リベスキンドの 「ベルリン・ユダヤ博物館」 とまでは言わないけど、建築家なりのホロコーストの解釈・表現をもっと空間に込めるべきだったように思える。

とはいえ、建築としてのクオリティはかなり高く、ディテールの隙もない。建築好きならわざわざ出かけていくだけの価値がある建物といえる。