尾道商業会議所記念館

不詳 1923

尾道では近代に入ると商都としての絶頂期を迎え、1892年には早くも商業会議所を設立した。県庁所在地以外での設立は珍しかったといい、広島市をしのぐ県下最大の商都として威容を誇った時代を感じさせる。
その会議所設立30周年記念事業として新築されたのが本作で、1971年まで商工会議所として使用された後、市に寄贈され、修復工事を経て現在は記念館として公開されている。

関東大震災前の設計だが、細部のおさまりはともかく、当時としては非常に珍しい(まだノウハウが蓄積されていない)RCが大きな破綻なくまとめられており、かなりの腕前を持った設計者によるものと推測される。アーケードがあるためファサード全体を拝むことができないのが残念だが(写真#1)、1階エントランスには洗い出しの装飾や尾道らしい石材を多用した仕上げを見ることができる(写真#2)。様式らしい様式はないが、無装飾というわけでもないあたりがいかにも大正期らしい。
内部の目玉は2階の議場で、大きな吹き抜けを備えた空間は驚きをもって迎えられたにちがいない。また、高さ17mというのは当時の感覚ではかなりの高層ビルだったはずで、商都の財力と誇りを示すシンボルでもあったことだろう。