リボンチャペル

中村拓志 2014

#1:内部空間見上げ

瀬戸内海を一望できるベラビスタ境ガ浜の敷地内に建つ結婚式用のチャペル。造船会社の接待所を起源とするホテルの新事業の目玉として建設された。
本作の特徴は言うまでもなくこの特徴的な形態だ。2つのらせん通路がクルクルと天に昇っていく造形になっている。2つのらせん通路を支える柱はごく細いものがあるだけで、基本的に通路同士が支え合って自立している。今までに見たことのない構造だ。
この構造から「2つのリボンが絡み合いながら支え合い、つながる頂点からは瀬戸内海の見事な視界が開ける」…というウェディングっぽいストーリー性が建築に与えられ、構造・空間・フレーズが見事に一致している。二重らせんを新郎新婦が分かれて上がっていき頂点で出会うといったセレモニーも行われているという。

構造のアイディアが生まれただけでは建築作品にはならず、設計思想がシンプルに表現されるようディテールを突き詰め、なおかつ実際に施工しなければならない。本作の場合、壁や屋根という概念を超えて、らせん通路だけで建築が構成されているため、三次元的に複雑な形状の開口部にガラスを合わせていくなど、かなりの苦労があったようだ。かくして、誰もがアッと驚く建築ができあがった。

残念なところもなくはない。実際に訪問した感想として、外観を見た瞬間の驚きを超えるものが建物内に無かったのが残念だった。つまり、強烈な第一印象が全てという「出オチ」である。その最たるものはらせん通路のてっぺんの箇所であり、「ゴールに何があるのだろう」とワクワクして上がって行ったのに頂点には何のしつらえもなく、頂点からの眺望も圧倒的とまでは言えず(上がらなくてもそれなりに見えるので)、ただ下り坂が始まるだけだったのが寂しかった。
二重らせん建築の大先輩である江戸時代の「さざえ堂」は、通路を上がった頂点には頂点らしい空間があり、上がった達成感がそれなりにある。本作も、ちょっとした工夫でいいので、何らか達成感を感じられるしつらえが欲しかったなと思う。