WAKKA

倉林貴彦建築設計事務所 2020

#1:カフェからの眺望。土塁で防潮堤を目隠ししている。

大三島(おおみしま)の東側、海沿いに新設された宿泊施設とカフェ。大三島は大山祇神社が代表的な観光地であり、建築業界では伊東豊雄による一連の活動で知られている。しまなみ海道がサイクリングルートとして完全に定着したことで、その沿道である大三島でもサイクリスト向けビジネスが一つの産業となりつつあり、本作もその一つといえるが、これほどの規模と質を持った施設は他にない。
本作は2020年12月時点で専門誌などへの掲載がないため、諸元等は分かりしだい補うことにして、ここでは訪問した感想を中心に記したい。

施設の構成

敷地は海と幹線道路に面しており、いわゆる旗竿状(海側に長く面する)となっている。道路側にフロントと立ち寄り休憩スペース、海側にコテージとグランピングサイトとカフェが配され、両者は細長い外廊下でつながっている。廊下に沿ってシャワーやランドリーなどの水回りが配されている。
カフェのボリュームはかなり大きく、三つの段を刻んで、多くの屋外ソファが置かれている。防潮堤で眺望がケられないようレベルを上げてあり、瀬戸内海を広く望む眺めはすばらしい。カフェ前面には芝生広場が広がり、防潮堤の目隠しを兼ねた土塁で景観を整えている。

サイクリスト・フレンドリー

カフェを観察していると小さな違和感がいくつか出てくる。階段の手すりは片側のみで、それぞれの段に転落防止柵はない。テーブルの後ろの通路は幅広でちょっと間延びした印象だ(写真#6,#7)。しかし、このスペースは人間だけで利用するのではなく、人間+自転車で訪れる前提だということが分かると、あらゆる寸法や設えがサイクリストにストレスをかけない最適解になっていることが理解できてくる。 例えば階段には車輪を載せるレールが付いているし(写真#8)、壁にはサイクルラックが作りつけてある(写真#9)。
敷地内の駐車場には自転車タクシー(自転車ごと送迎してくれる)が待機しており、敷地に隣接する船着場にはクルーザーまである。これほどまでにサイクリストに寄り添うコンセプトを徹底させた施設は近隣にはなく、唯一無二の存在となっている。

木造であること

いずれの施設も木造で、部材を細くでき軽快さをもたらしているほか、ディテールに柔らかさを与えている。減価償却期間が短いから短期間での投資回収にもメリットがあるはずだ。

開放性の高さ

改めて施設全体を見て驚くのは、敷地内の空間の大半がセミパブリックという開放性の高さだ。これは自転車と人が同時に動きやすくして、サイクリストを集めたいというデザイン意図と思われるが、余白の多さから来る非日常性はリゾート感の演出にもつながっている。